グリッド細胞は単一のグローバルマップではなく、複数のローカルマップで空間ナビゲーションを支援する
グリッド細胞は内側嗅内皮質に存在する特殊なニューロンで、空間ナビゲーションと記憶プロセスを支援することが知られています。これまでの研究では、これらの細胞が動物の移動に伴い格子状のパターンで発火し、環境の内部マップを形成すると考えられていました。
新たな研究がグリッド細胞の働きに新知見
ハイデルベルク大学などの研究チームは、グリッド細胞が空間内で動物の位置を符号化し、空間ナビゲーションにどのように貢献するかについて新たな光を当てる研究を実施しました。その結果、グリッド細胞は単一のグローバルマップを作成・保持するのではなく、動物の周囲の空間における将来の行動を導くことができる複数のローカルマップを生成していることを示唆しています。
パスインテグレーションの解明への挑戦
この研究は、グリッド細胞が「パスインテグレーション」(外部の目印がない状況でも、自己運動の手がかりを継続的に統合して動物が自身の位置を推定する基本的なナビゲーションプロセス)を支援するという提案に基づいています。しかし、これまでの研究の多くは外部の手がかりが豊富な環境で行われていたため、パスインテグレーションプロセスを分離することが困難でした。
研究チームは、この限界を克服するため、動物が自己運動の手がかりのみを統合して位置を推定する際のグリッド細胞の活動を記録できる新しい実験パラダイムを開発しました。高密度シリコンプローブを用いて自由行動中のマウスから多数のグリッド細胞活動を同時に記録し、この活動に基づいて動物の動きを推定するアルゴリズム(人工ニューラルネットワーク)を開発しました。
空間参照フレームの動的なシフトを発見
この新しいアルゴリズムを用いて得られた知見は、グリッド細胞が単一の固定されたグローバル座標系に依存するのではなく、最近の経験や文脈に応じて動的にシフトする空間参照フレームに依存することを示唆しています。これは、暗闇の部屋でドアを基準にしていた位置感覚が、ソファにぶつかることでソファを新たな基準点としてシフトするような柔軟性を持つと説明されています。
従来の仮定への挑戦と将来の展望
これらの結果は、グリッド細胞が空間ナビゲーションにどのように貢献するかについての神経科学コミュニティ内の長年の仮定に挑戦するものです。従来の予想よりもグリッド細胞が環境をより適応的にマッピングし、空間内の動物の位置を動的に更新していることを示唆しています。
今後の研究では、グリッド細胞が外部または文脈的手がかりに応答してローカルマップを更新するプロセスをさらに解明することが期待されます。また、この研究は、グリッド細胞に触発された新しい計算システムの開発に役立ち、マップ作成やロボットナビゲーションの改善に貢献する可能性があります。
