医療過誤訴訟における「核となる評決」の増加とインフレの影響
近年、医療過誤訴訟において記録的な高額賠償金が相次いでおり、これを「核となる評決(nuclear verdicts)」と呼んでいます。例えば、ペンシルベニア州では2億760万ドルの評決が、ジョージア州では7000万ドルの評決が下されました。これらの高額評決は、経済的インフレだけでなく、「社会的インフレ」によっても引き起こされていると専門家は指摘しています。
社会的インフレとは何か?
社会的インフレとは、企業責任に対する態度の変化、大組織への国民の信頼低下、金銭価値観の変化といった社会的要因により、請求額や法的費用が上昇する現象を指します。第三者による訴訟資金提供やソーシャルメディアが世論や陪審員の態度に与える影響も一因とされています。
医療過誤費用への二重の影響
The Doctors Companyのデータによると、2015年から2024年の間に、経済的インフレと社会的インフレの両方が、医師専門の保険会社にとって推定40億ドルの保険損失と費用に寄与しました。社会的インフレは、保険会社の平均請求額が全体のインフレ率よりも速く増加する際に発生します。
- 医療過誤請求の頻度と深刻度(賠償額)は着実に増加しています。
- 2023年には、200万ドルを超える請求の割合が2013年の1.9%から3.2%に上昇しました。
- 平均請求賠償額も2013年の44万7108ドルから2023年には48万5885ドルに増加しています。
医師への多角的な影響
社会的インフレの台頭は、医師に多大な影響を与えています。
- 訴訟リスクの増大
- 敗訴時の損害賠償額の増加
- 保険料の上昇
これらの影響は、将来的に医師の収益を圧迫する可能性があり、保険料率の引き上げにつながると予想されています。
社会的インフレの背景にあるもの
専門家は、社会的インフレの要因として以下の点を挙げています。
- 医師と患者の関係性の希薄化: 医療がより非個人的になり、患者が医師との長期的な関係を持たないことで、訴訟を起こしやすくなっています。
- 原告側弁護士の戦術: 弁護士が陪審員を感情的に操作し、医療提供者や病院を「危険」と見なし、懲罰を求めるよう仕向ける戦術が効果を上げています。
- 金銭価値観の変化: アスリートやエンターテイナーの報酬などにより、社会全体で高額な金銭に対する感覚が麻痺し、巨額の賠償金に対する抵抗感が薄れています。
高額評決が示談金と保険料を押し上げる
TransReのデータによると、1000万ドル以上の評決件数は2013-2015年の85件から2022-2024年には160件へとほぼ倍増しました。これらの高額評決は、医療過誤訴訟の示談金額にも直接的な影響を与え、保険会社がより多くのケースで、より高額な示談に応じる要因となっています。
結果として、医療過誤保険の保険料率も上昇しており、2024年には保険会社の50%が料率引き上げを報告しました。これは2018年の14%から大幅な増加です。
