Carba1が化学療法誘発末梢神経障害(CIPN)を予防する可能性を秘める
フランスとアメリカの研究チームが、治験薬Carba1が前臨床モデルにおいて化学療法誘発末梢神経障害(CIPN)を予防する可能性があることを発見しました。Science Advances誌に発表された研究によると、この分子は抗がん効果を維持しながら、一般的な化学療法薬による神経細胞の損傷から保護するようです。
CIPNの臨床的ニーズと現状
CIPNは、化学療法を受ける患者の70%〜80%に影響を及ぼし、治療終了後も手足のしびれ、灼熱感、痛み、感覚麻痺といった症状が持続します。研究共著者であるグルノーブル・アルプ大学のLaurence Lafanechère博士は、「患者の約25%が化学療法中止後も症状が長く続く」と述べており、現状では予防法も治療法も存在しないことが大きな問題です。痛みが激しいため、化学療法薬の減量を余儀なくされるケースもあります。
研究の発見:Carba1の特定
Lafanechère博士は、細胞分裂に関わる微小管が化学療法薬、特にタキサン系薬剤の標的となる一方で、神経細胞の軸索輸送にも重要であることに着目しました。タキソール(パクリタキセル)の毒性を減らしつつ効果を高める分子を探し、8000種類の化合物の中からCarba1を特定しました。Carba1は、パクリタキセルと組み合わせることで、がん細胞に対して毒性効果を発揮しつつ、神経保護効果も持つことが判明しました。
神経保護メカニズムと広範な適用可能性
当初、Carba1がパクリタキセルの用量を減らすこと以外に応用可能性が少ないと感じていたLafanechère博士でしたが、文献調査によりカルバゾール核が神経障害に影響を与えることが示唆されました。米コロンビア大学のFrancesca Bartolini博士との共同研究により、Carba1がパクリタキセルの用量を減らすだけでなく、神経細胞を保護することが確認されました。損傷した神経細胞は通常「真珠のネックレス」のように見えるのに対し、Carba1とパクリタキセルに接触させると滑らかな繊維のままでした。さらに、Carba1はシスプラチンやボルテゾミブといった他の化学療法薬に対しても保護効果を発揮することが示されました。
分子メカニズムの解明により、Carba1は神経細胞の変性時に減少する重要な補酵素であるNADの産生を増加させることが判明しました。これにより、エネルギー枯渇を防ぎ、細胞死を回避します。この神経保護効果は、培養ニューロン、後根神経節外植片、動物行動モデルの3つの異なるモデルで検証されました。動物実験では、Carba1をパクリタキセルと併用することで、痛みのレベルがベースラインに維持され、神経終末の数や神経変性のバイオマーカーである神経線維軽鎖(NfL)のレベルもコントロール群と同等でした。これは、Carba1が単なる鎮痛剤ではなく、真の神経保護効果を持つことを示しています。
今後の展望
研究チームは、神経障害の予防とパクリタキセルとの相乗効果に関する2つの特許を申請しました。現在、Saxolというスタートアップを設立し、さらなる投資を募って、製剤化、用量設定、安全性試験を進めています。Lafanechère博士は、大規模な製薬会社との提携による臨床試験実施まで5〜7年を見込んでいます。Carba1は、糖尿病性神経障害、加齢性神経障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、他の形態の神経障害の治療にも有望であると期待されていますが、当面はCIPNに焦点を当てて開発を進める方針です。