スタジアムの歓声が「サッカー選手の病」の原因となっている可能性はあるか?

サッカー選手に多いALS「サッカー選手の病気」:スタジアムの騒音が原因か?

サッカー選手に筋萎縮性側索硬化症(ALS)の罹患率が高いことは知られており、「サッカー選手の病気」とも呼ばれています。これまでの頭部外傷、ドーピング、農薬曝露といった仮説では、この現象の独特な疫学(特にトップリーグでのリスクの高さ)を十分に説明できていませんでした。

新たな仮説:スタジアムの騒音

イタリアの研究者グループは、医学誌「Medical Hypotheses」で、スタジアムの騒音がこの原因である可能性という新たな仮説を提唱しました。

曝露レベル: トップリーグのプロ選手は、ロックコンサートやジェットエンジンの離陸時と同等の高強度な騒音(95-110 dB、ピーク123-140 dB)に定期的に曝露されます。

リスクの差: アマチュアや下位リーグの選手ではこのような騒音レベルに遭遇することは稀であり、イタリアのトップリーグ(セリエA)の選手は、下位リーグ(セリエB)の選手と比較してALSリスクが約2倍も高いことが示されています。

提案されるメカニズム:血液脳関門(BBB)の役割

研究者らは、高強度な騒音曝露と激しい身体活動が複合的に作用するメカニズムを提案しています。

BBB透過性の増加: 十分に大きな音への曝露は、血液脳関門(BBB)の透過性を高めることが知られています。

神経毒性物質の侵入: 激しい運動は、乳酸やアンモニアといった代謝副産物、およびTNF-α、IL-1β、特にIL-6などの炎症性サイトカインの血中濃度を上昇させます。BBBが弱まることで、これらの物質が中枢神経系に侵入し、神経毒性作用を引き起こす可能性があります。また、サッカー場の農薬などの神経毒性物質もBBBを通過しやすくなると考えられます。

仮説の適用範囲と今後の展望

この仮説は、観客が多く騒音レベルが高いスポーツ(サッカー)でALSリスクが高い理由を説明する可能性があります。

他のスポーツ: バスケットボールやアイスホッケーなど、有酸素運動が主体で騒音レベルが低いスポーツでは、同様のリスク上昇は見られません。

ポジション差: 身体的負荷が異なるゴールキーパーは、他のフィールドプレーヤーのような高いALSリスクを示しません。

  • 音楽家への適用: 高音量と激しい身体的負荷を伴うポップやロックの音楽家にもALSケースが多いという逸話が指摘されており、歌手の場合は自身の声帯からの振動も影響する可能性が示唆されています。

この仮説は現在、予備的な作業仮説であり、臨床的・疫学的データによる裏付けはまだありません。研究グループは、大規模な臨床研究プロトコル(500人以上の選手と非選手を比較)を提案しており、この仮説が確認されれば、アスリートの健康向上だけでなく、ALSの原因と分子メカニズムの理解を深めることに繋がると期待されています。

元記事:Could Stadium Noise Be Behind the ‘Footballers’ Disease’?