「ソーシャルフレイル」が認知症の主要リスク、早期発見と治療への新たなアプローチ
UNSWの研究者であるサージ・サムタニ博士は、高齢者の脳機能評価において、記憶テストや脳スキャンよりも社会的つながりの頻度、コミュニティ活動への参加、信頼できる人の有無を重視しています。博士は、「ソーシャルフレイル」を、社会的つながりを維持し、社会的ニーズを満たすために必要なリソースを失う脆弱性と定義しており、これが認知機能低下、障害、早期死亡と関連していると指摘しています。特に高齢期においては、社会的孤立が認知症の最大の危険因子であるとしています。
研究の目的とスクリーニングツールの開発
サムタニ博士の研究目標は、認知機能に懸念を持つ高齢者が、社交的な状況で自信を持ち、つながりを感じ、生活の質を向上させることです。既存の治療法が記憶や言語能力の向上に焦点を当てる中、博士のチームは社会的スキルとつながりを強化・維持する治療法の必要性を強調しています。
その一環として、一般開業医がソーシャルフレイルをスクリーニングするためのエビデンスに基づいた指標を開発しました。長期研究「Sydney Memory and Aging Study」のデータを用いた分析では、ソーシャルフレイルな個人は、身体的・心理的フレイルなどの他の要因を考慮しても、認知症を発症する可能性が最大50%高いことが判明しました。この指標は、研究開始時に認知機能が健康だった人でも認知症を予測する因子となることを示唆しています。ただし、この知見をより多様な人口で再現するため、「Sydney Brain Health Equity Lab」が設立され、地域的・社会経済的に多様なデータが求められています。
介入プログラムと政策への影響
世界的規模で見ても、40,000人を対象としたデータでは、社会的孤立者は認知症のリスクが2倍になることが示されています。サムタニ博士は現在、記憶喪失や認知症の人々の孤独感を軽減し、社会的自信を向上させることを目指す臨床試験「Maintaining Social Engagement」を主導しています。このプログラムは、ボディーランゲージの読み取り、会話の継続、記憶の課題への対処、感覚過負荷の管理、自己主張の練習といった社会的スキルに焦点を当てています。パイロット研究では、他者との理解とコミュニケーションの改善に有望な結果が出ており、現在、57名の参加者(50歳以上)を対象とした本試験が進行中です。
サムタニ博士の研究は政策にも影響を与えており、NSW議会の孤独に関する調査に貢献しました。その中で、孤独が1日15本の喫煙と同じくらい身体の健康に悪いというハーバード成人発達研究の知見が引用されています。調査報告書は、高齢者が毎週から毎月社会交流を持ち、信頼できる人に相談する機会、定期的なコミュニティ参加を確保するための明確なガイドラインを提唱しています。
博士は、政策やツールの開発が進む一方で、個人も直ちに行動を起こし認知機能低下を予防できると強調しています。それは、自身の趣味や興味と結びつけた「意味のある社会的関与」を通じて実現できるものであり、ボランティア活動、読書クラブ、コミュニティクラス、ダンスグループへの参加などが例として挙げられています。薬物やハイテク介入だけでなく、日常的なつながりこそが、健康な脳の老化を促進するというメッセージが伝えられています。
元記事:Staying connected: How social ties can protect aging brains