新AIツールPepMLM、「治療困難な」疾患タンパク質を標的へ
カナダと米国の研究者が、これまで治療が困難だったがん、ホルモン障害、ハンチントン病、ウイルス感染症などの疾患タンパク質を標的とする新しい人工知能(AI)ツール「PepMLM」を開発しました。
PepMLMの画期的なアプローチ
PepMLMは、自然言語処理技術であるマスク化言語モデリング(MLM)を活用し、タンパク質の「言語」を理解します。従来のタンパク質構造に焦点を当てる方法とは異なり、PepMLMはタンパク質の配列情報を利用して、構造が不明または不安定なタンパク質を分解できる薬剤様分子を開発します。
研究著者であるマクマスター大学のレイ・トゥルーアント博士は、「従来のペプチド生成法は、標的の構造を知ることが不可欠だと考えられていたため、数年と数百万ドルを要する可能性があった」と述べています。しかし、PepMLMは構造を知る必要がなく、配列情報だけで済むため、開発期間とコストを劇的に削減できると強調しています。
開発と性能
この多分野にわたる研究チームは、Meta AIが開発したタンパク質言語モデルESM-2を基盤として、純粋なde novo(ゼロから)の結合剤設計アルゴリズムとしてPepMLMを設計しました。テストでは、PepMLMは既存の検証済みペプチド-タンパク質配列ペアと同等またはそれ以上の性能を発揮し、最先端のモデルを凌駕しました。
幅広い疾患への応用可能性
初期実験では、PepMLMは以下の疾患に関連する強力で特異的なペプチド結合剤を作成できることが示されました。
- 急性骨髄性白血病の主要マーカーである神経細胞接着分子1
- 多嚢胞性卵巣症候群の重要な調節因子である抗ミュラー管ホルモンタイプ2受容体
さらに、PepMLMが設計したペプチドは、MSH3や変異型ハンチンチンタンパク質などの疾患関連タンパク質を分解することで、ハンチントン病に対処できる可能性も示されました。
また、パンデミックの可能性が高いとされるニパウイルス、ヘンドラウイルス、およびヒトメタニューモウイルスといったウイルスにおいて、ウイルスのリン酸化タンパク質レベルを大幅に減少させました。これらのウイルスには、ワクチンや抗ウイルス治療法がほとんど、あるいは全くありません。
トゥルーアント博士は、「このアルゴリズムは、あらゆる入力タンパク質配列から結合ペプチドを生成できる。あらゆるタンパク質、あるいはタンパク質の微細な部分を標的にできる。これは創薬のための新しい普遍的なツールとなるだろう」と述べています。
ペプチド研究の未来
近年、ペプチド結合部位を特定し、治療に応用するためのアルゴリズムが多数開発されています。トロント大学の研究チームも、PepNN-StructやPepNN-Seq、PepFlowといったモデルを開発しており、PepMLMもPepNNとPropediaからのトレーニングデータを利用しています。
トロント大学のフィリップ・M・キム博士は、ペプチドが重要な生物学的分子であり、オゼンピックのようなGLP-1アナログが糖尿病や肥満の治療に用いられているように、治療薬としても重要であると指摘しています。
これらの深層学習モデルにはまだ限界があるものの、将来の治療法に向けた大きな可能性を秘めています。PepMLMの研究者たちは、より高度なモデルを開発し、多様な疾患への技術応用を目指してバイオテクノロジー企業を設立しています。
