肺がん手術前の喫煙:合併症リスクと死亡率に関する新たな知見
概要
肺がん切除術を受ける患者において、手術直前まで喫煙を続けている患者は、禁煙している患者に比べて肺合併症のリスクが高いものの、30日死亡率には差がないことが、85,000人以上の患者を対象とした大規模な後ろ向き分析で明らかになりました。
研究方法と対象
本研究は、2018年から2023年の間に肺がん切除術を受けた85,124人の現在および元喫煙者を対象としたものです。
現在の喫煙者: 手術前1ヶ月以内に喫煙を自己申告した患者(全体の28%)。
元喫煙者: 手術前1ヶ月以上禁煙していた患者(全体の72%)。
研究者らは、Society of Thoracic Surgeons General Thoracic Surgery Databaseのデータを使用しました。
主要な研究結果
肺合併症のリスク:
現在の喫煙者では34.6%が肺合併症を発症したのに対し、元喫煙者では30.5%でした。
特に、肺炎(12.7% vs 8.1%)、呼吸不全(7.7% vs 5.4%)、急性呼吸窮迫症候群(1.6% vs 1.2%)、気管支胸膜瘻(1.1% vs 0.6%)が現在の喫煙者で有意に高率でした。
年齢、併存疾患、喫煙年数などの変数で調整した後も、現在の喫煙は肺合併症のリスク増加と関連していました(調整オッズ比1.54)。
30日死亡率:
両グループともに1%であり、統計的な差は認められませんでした。
専門家の見解と臨床的示唆
専門家らは、これらの結果が肺がん診断後の禁煙支援に対するバランスの取れたアプローチの必要性を強調していると述べています。
治療遅延のリスク: Temple UniversityのCherie P. Erkmen医師は、「治療の遅延は死亡率の増加と関連するが、喫煙はそうではない」と指摘。肺がん診断は患者にとって「壊滅的」であり、手術前の禁煙を絶対的な要件とすることは、患者に絶望感を与える可能性があると強調しました。
個別化された意思決定: 研究の著者らは、「外科医は、患者が肺がん切除術の候補であるかどうかを判断する際に、喫煙状況のみを使用すべきではない」と結論付けています。University of Texas MD Anderson Cancer CenterのMara Antonoff医師も、「現在の喫煙が治癒的な手術を自動的に排除したり、決定的に遅らせたりすべきではない」と述べ、個別化された意思決定の重要性を強調しています。
- 術前禁煙の推奨: Antonoff医師は、合併症リスクの軽減と回復の最適化のため、理想的には手術前3週間の禁煙を患者に求めることが多いと述べています。Erkmen医師も、禁煙すれば手術の成功率が向上すると患者に伝えつつ、可能な限り早く手術を進めるべきだと考えています。
過去の研究と実践の変化
過去の研究では、現喫煙者が肺切除術後の肺合併症や創傷合併症のリスクが高いとされてきましたが、これらの研究では元喫煙者と非喫煙者が一括りにされていることが多く、最近の喫煙による具体的なリスクが過大評価されていた可能性が指摘されています。
本研究では、過去6年間で、現在の喫煙者に対して肺切除術を行わない病院の割合が5.7%から3.9%へ、個々の外科医では15.1%から9.6%へと減少していることが示され、「より包括的でリスクに基づいた意思決定」への移行が示唆されています。
今後の課題
Erkmen医師は、「手術の数日前であっても禁煙することに利益があるかもしれない。これはまだ不明であり、実際の状況に関連している」と述べ、より微妙な禁煙期間の影響に関するさらなるデータが必要であることを示唆しています。
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