プライマリケアにおける脂質管理の障壁への取り組み
低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)の低下は心血管リスクを減らすための確立された方法ですが、脂質降下薬を服用している患者全員が推奨されるLDL-C目標を達成しているわけではなく、また、これらの薬を必要とする全ての人が服用しているわけではありません。
LDL-C目標値の相違
英国国立医療技術評価機構(NICE)は、心血管イベント既往者に対しLDL-Cを2.0 mmol/L(77 mg/dL)以下と推奨していますが、欧州心臓病学会(ESC)の目標値はより厳格です。ESCは、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の高リスク患者では1.8 mmol/L(70 mg/dL)以下、超高リスク患者では1.4 mmol/L(55 mg/dL)以下、極度高リスク患者では1.0 mmol/L(40 mg/dL)以下を治療目標としています。
LDL-C目標達成への障壁
プライマリケアにおいて最適なLDL-Cコントロールを達成するための主な障壁は以下の通りです。
教育の不足: 医療従事者と患者双方において、アテローム性動脈硬化のプロセス、脂質降下薬の重要性、スタチン以外の薬剤(エゼチミブ、ベムペド酸、インクリシランなど)に関する理解が不足しています。
薬剤選択と併用療法: スタチンが第一選択薬として広く認識されていますが、用量を倍増してもLDL-Cの低下はわずか約6%に過ぎません。目標達成のためには、スタチンに加え、エゼチミブ、ベムペド酸、インクリシランといった他の薬剤との併用療法を早期に検討することが不可欠です。
コレステロール検査の不足と認識の誤り: 患者が自身のコレステロール値を把握していないケースが多く、また、過去の検査結果が「正常」と分類されていても、実際には許容範囲外であることを見過ごしている医療従事者もいます。
患者のアドヒアランス:
副作用への懸念: スタチンがラベルに記載されているほとんどの副作用を引き起こさないことが大規模なメタアナリシスで示されているにもかかわらず、副作用が服用拒否の主な理由となることがあります。
必要性の認識不足: 体調が良いと感じる患者は、薬の必要性を感じないことがあります。
誤った情報: スタチンと認知症の関連性に関する誤った情報が広まっていますが、データはむしろ血管性認知症のリスクを減らす可能性を示唆しています。
解決策と提言
包括的な教育: アテローム性動脈硬化の進行性、脂質降下薬の有効性、および目標値の重要性について、医療従事者と患者双方への継続的な教育が不可欠です。
早期かつ多様な治療介入: スタチンだけでなく、エゼチミブやPCSK9阻害薬などの併用療法を治療経路の早い段階で検討し、患者をより迅速に目標値に到達させるべきです。
定期的な脂質プロファイルの測定と評価: 全ての医療従事者が脂質に関する知識を持ち、患者の脂質プロファイルを日常的に測定し、適切に評価する習慣を確立すべきです。
- 患者との共有意思決定: 患者が脂質降下薬の服用に抵抗がある場合でも、その理由を理解し、十分な情報を提供した上で、共有意思決定を行うことが重要です。グループ相談も有効な教育・情報提供手段となり得ます。患者がスタチンを拒否する場合でも、エゼチミブのような他の選択肢を提案し、患者と共に治療を進める姿勢が求められます。